初恋のきた道

初恋のきた道(2000年)

監督:チャン・イーモウ
代表作品:あの子を探して 紅いコーリャン


主演:チャン・ツィイー
スン・ホンレイ
チャオ・ユエリン
チェン・ハオ


== さくらの思い ==

この純朴なディの一途な思いだけが、胸に響いた。
一体、これだけの思いで、人を愛したことがあるのだろうか?
ひたすら、純粋にルオを思うディの心が、本当に胸に染みた。
決して熱いものではなく、頑なで揺ぎ無い気持ちに思えた。
熱い気持ちは何時か冷めてしまうけど、
ディの気持ちは、そんな柔な気持ちではなかった。
たとえ自分の身に何が起こっても、ルオを思う気持ちは決して変わるものではなかったと・・・
その思いはルオが死ぬまで、ううん。死んでも変わることがなかった。

ルオのために、一生懸命になれるディ。
その一つ一つが、けなげであり、また切なくもあった。

先生のためにご飯を作るディ。
先生を追いかけたくて、でもできなくて・・・
やっと近づけたあの日の喜び。
やっとの思いで近づけたのに、遠く離れることになった時のあの胸の痛み。
帰ってくるはずの日に、帰ってこなかったあの苦しみ。

「もう、父さんには会えないんだよ。」と息子の前で泣き崩れる母の姿を見たとき
自分の両親は、こんな風に愛し合ったのかな?
そして、死を迎えたとき、ここまでお互いを愛しているのかな?と感じた。
自分もこの先結婚したら、こんな風に愛し合っていられるのか・・・

この映画は、母ディが、父ルオに出会ったときからから、ずっとずっと愛しつづける
そのまっすぐな気持ちが強烈に胸に響きます。

そして、移りゆく四季が見せてくれる自然の美しさに、目を見張ることでしょう。



== さくらのための覚書 ==

ションズは一人っ子で、大学を出て、街で働いていた。
そんな彼の元に、ずっと三合屯村で教師をしていた父が亡くなったと連絡が入る。
彼は仕事場の車で自宅まで送ってもらい、家に着く。
車を見かけた村長とシアがションズの家にやってきて、父の死因について話をしてくれた。
父は、学校の建て直しを村に申し出ていたという。
やっとその申し出に村が建て直しの結論を出したが、村にはそんなお金もなく、
父は金策にあちこち歩き回っていた。
その帰りに猛吹雪に会い、その吹雪の中倒れたのだった。
病院へ連れていかれたが、父は心臓病を患っていて、助からなかったと言う。

今は、まだ病院の霊安室にいる父を村長たちは、車で運びたいとションズに
持ちかける。
ションズはOKしたが、母は父を担いで帰りたいと聞かない。
家路をたどる慣わしで、担げば家路が見えると言う迷信を信じてのことだった。
しかし、村には老人と子供しかいないため、村長たちはションズに母を説得するよう
伝えた。説得に当たるため、母の居場所を聞くションズ。
なんと、母は父が死んでから、父が働いていた学校の前に座ったきり
動こうとしないという。ションズが迎えに行くと

「もう、父さんには会えないんだよ」
と泣き崩れる母がいた。

ションズは母を連れて、家路につく。
家に着くなり、母は「父の棺にかける布を織るから機織りを出して欲しい」と
頼んできた。母は、人を雇ってでも父の棺を担いでこの家に戻すつもりだった。
機を織る隣の父の部屋で、ションズは父と母の新婚当時の写真を見つけた。


二人の恋愛は、村中を騒がせるものだった。


母:ディ 18歳 父:ルオ 20歳

馬車が父を運んできたと母は言っていた。
村にやって来た新米教師のルオ。そんな先生を一目見ようと
ディは、真っ赤な上着を着てやってきた。

人ごみの中、二人の視線は交錯する。

村ある表井戸と裏井戸。
みんなは近いという理由から裏井戸を使っていたが、
ディはルオが来てからというもの、建設中の学校のそばにある
表井戸を使うようになった。
当時、村では現場で働く男性に食事を運ぶ習慣があった。
ディは学校を建てているルオに食べさせたい一心で、毎日毎日違うものを作った。
先生が食べてくれることを祈りながら、表井戸からその光景をいつもみつめていた。

そして、校舎が完成し、初授業の日。
村中の人が学校のまわりに集まり、先生の授業に耳を傾ける。
ディも同じように耳を傾けた。
先生の声を嬉しそうに聞くディ。
自分が分からない言葉でも、先生が読むと感動できた。
その日以来、彼の声を聞くことがディの生活の一部となり、村の人が飽きてしまっても
ディだけは、毎日学校に行くのだった。

先生が、家の遠い子供を家まで送っていると聞きつけたディは、
待ち伏せをして、先生を一目見ようと努力した。
木や草の陰から、こっそりと・・・

ある日、ディは勇気を振り絞って、その集団とすれ違うように歩いた。
目線を交わす二人。どきどきして目線をそらすディに、先生はニッコリ笑って
会釈したのだった。ディは、嬉しくて小走りにその場を逃げてしまった。
その後姿を見ながら、生徒にディの名前を聞くルオだった。

授業の合間に、ディが井戸に水を汲みに来ているのを発見した先生。
急いで桶を持って井戸に向かう先生を村人が阻止した。
そんなことしないで下さい。私がやります!と。
ディも先生も肩を落としてしまう・・・

翌日は、ディの家でご飯を食べる日だった。
ディは翌朝、早くから起きて、先生のために支度に励む。

待ちに待った、先生がやってきた。
太陽の光を浴び、ディは玄関先に迎えに立つ。
(迎えたときのディについて父は、一幅の画のようで、一生忘れないと
いっていた。それほどまでに美しい姿だったそうだ。)

ディは、台所で仕事をしながら先生が食べる姿を見つめていた。

ふと、青絵のお皿を先生の前に突き出し「覚えている?このお皿」と聞くディ。
先生は困り果て、ディの母の顔を見ると母は、先生がこの村に来たときに
先生にご飯を食べてもらいたい一心で、ディが手を変え品を変え
懸命に作っていた話しをしたのだった。その話しに、先生は
「覚えてるよ!」とディを気遣ったのだが、ディが何がおいしかった?と
詰め寄る。答えられない先生にディは、自分が作った料理を説明した。
きのこ餃子を挙げたときに先生が「残念だ。好きなのに。食べたかったなぁ」と
言ってくれ、ディの表情が晴れた。
「夕方作るから、食べに来て!」と約束を取りつける。
嬉しくて嬉しくて、夕飯までにおいしいきのこ餃子を作ろうと
懸命になっているディを見て、母は「身分が違いすぎる。諦めるんだ。」と
きつく言った。

餃子が蒸しあがり、先生を待つ。
やっと現れた先生だったが、ディを外に呼び出し「別れを言いに来た!」と
突然告げる。なんで?と詰寄るディに「使いが迎えに来たんだ。
旧暦の12月8日、冬休みの前には必ず帰るから。」と説得する。
納得の出来ないディ。
一生懸命餃子を作っていたのに…先生がくることを楽しみにしていたのに。

ディは、使いの人も呼んで餃子を食べていってよ!と勧める。
先生は分かった。と言い、ディのために買った、あの初めてディに会った日に
着ていた紅い服に似合う髪留めを渡すと、そのまま使いのところへ戻っていった。
その後、ディの前に先生は姿を現さず、使いと共にこの村を去っていった。

それを聞き付けたディは、餃子を包み野山を走って、先生の馬車を追いかけた。
走って、走って・・・こんなに一生懸命走ったのに、足がもつれて転んでしまう。
先生のために作った餃子が散らばり、思い出の青絵の皿も割れてしまった。
そして、野山の向こうに、先生を乗せた馬車がどんどん小さくなっていった。
ディは、その場に泣き崩れた。声に出して泣き叫んだ。
先生が自分の前からいなくなってしまった悲しみ。
先生に会えなくなることの苦しみ。

我に帰り、家路を戻ろうとするディ。
髪留めがないことに気付く。彼女はそれから何日も、朝から晩まで
ピンを探した。先生が自分のために買ってくれた大切な髪留めを。
ある日、家の庭先でその髪留めを見つけた。
ディの顔は喜びにあふれたが次の瞬間、先生への思いが胸にこみあげてきて
悲しみの表情へ変わっていったのだった。

先生への思いを断切れないでいる、ディを見ていた母。
ある日、瀬戸物修理屋が来た。母は、あの青絵の皿を修理してもらう。
大切な人が使った思い出の品だからと。これくらいしか娘にしてやれないからと。

吹雪の日、ディは先生も生徒もいなくなってしまった学校に、一人出向いた。
そこで、窓の障子を破り、自分が機で織った黄色い布を、1枚1枚丁寧に
貼っていく。その上に、切り絵を貼って。先生がいつ帰ってきてもすぐに
授業が再開できるように、そんな気遣いが彼女をそうさせたのだろう。
村長は、そんなディをみつけ、彼女の気持ちを知ったのだ。

約束の旧暦12月8日がやってきた。
ディは朝から先生を待ちつづけた。あの道で・・・
凍りつく寒さの中、朝から晩まで先生を待ったが、先生は夜になっても現れなかった。
フラフラになりながら、ディは家に着いた。
しかし、あの寒さの中・・・そのまま高熱で床に伏してしまった。
明くる日、病み上がりの体を引きずって「先生を町に探しに行く。」と
出ていくが、町につく前に倒れ、そのまま二日眠りについてしまった。
彼女は、先生のためなら、何をしでかすか分からないほど
先生を思っていたのだ。

目を覚ますと、母が嬉しそうに話した。
「先生が帰って来たんだよ!一晩中ここにいたんだよ。」と。

ディは、走って学校に向かい、やっと先生との再会を果たした。
その日の夕方、先生は町に連れ戻されることに。
先生は、ディの事を聞き、心配で町を抜け出してきてしまったのだ。

この一件で、二人は2年も会うことができなかった。

村長の話では、2年後二人が再会した日、母は父が好きな紅い服を着て
あの道で待っていたそうだ。それ以来、父は母のそばを離れなかったという。

二人はこの道で出会い、愛し合った。
村と町をつなぐありふれた山道で。

必死の思いで待ちつづけたこの道を
母は最後に父とたどりたいのだろう・・・


「そう思った息子ションズは、村長の家に向かい「隣の村から人を雇ってでも
父を担いで運んでやりたい。」と頼み込んだ。
5000元を渡し、村長も了解し、父を担いで家に帰ることになったのだ。

「ルオ先生、帰りますよ!」の掛け声で、吹雪の中、父を担ぎながら歩く。
担ぎ手は、父の教え子が100人も集まってくれた。
知らせを聞き、遠く広州から来てくれた生徒もいた。
結局、渡されたお金は返された。生徒の誰一人受け取ることがなかったという。
吹雪の中、代わる代わる担ぎたいと集まる生徒たちとともに、無事家にたどり着く父の亡骸。

母の希望で、表井戸のとなりに父の墓は建てられた。
ここなら学校も見えるからという理由で。そして、自分も将来はここに埋めて欲しいと言った。

村長は、村が、学校の新校舎設立を決めた!と伝えに来た。
母とションズは今までの蓄えを村に寄付する。
母は、ションズを学校に連れて行き、父がションズを学校の先生にしたかったこと
父さんの夢を1日でも1科目でも叶えてほしかったことを聞かせた。

その夜、ションズは母に「一緒に暮そう」と話すが、母は
「父さんがここにいるから。」と断る。
結婚について、ションズに問い掛ける母だったが、母は父もその事を
気にかけていたんだと泣き崩れてしまう。
あまりなくと体に毒だと言うションズに
「だって、父さんがいないんだもの・・・」
と、声をあげて泣き崩れるのであった。これほどまでに父を思う思い・・・

翌朝、学校からあの言葉が聞こえる。

~字を書き計算ができること~
~どんなことも筆記すること~
~今と昔を知り天と地を知る~
~四季は春夏秋冬~
~天地は東西南北~
~どんな出来事も心にとどめよ~
~目上の人を敬うべし~

母は、あの頃のように夢中で学校へひた走る。
父さんのあの言葉・・・
そこには、息子のションズがいた。
彼は、母のため、父のために立ったのだ。
父が生涯立ち続けたこの場所に、立ちたかったから。
彼が読み上げた文章は、父が最初の日にこの場所で読んだ
父が作った文章。

~字を書き計算ができること~
~どんなことも筆記すること~
~今と昔を知り天と地を知る~
~四季は春夏秋冬~
~天地は東西南北~
~どんな出来事も心にとどめよ~
~目上の人を敬うべし~


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